ルシフェル








黎明の子、明けの明星よ、お前は天から落ちた。もろもろの国を倒した者よ、お前は切られて地に倒れてしまった。お前はさきに心のうちに言った、「わたしは天にのぼり、わたしの王座を高く神の星の上におき、北の果てなる集会の山に座し、雲のいただきにのぼり、いと高き者のようになろう。」


―イザヤの書



飛行船が雲をちぎっていた。上下左右に備え付けられた古ぼけたプロペラが猛回転している。横風を受けると機体は激しく揺れた。飛行船はほとんどが板と針金でできていて、エンジンの唸り声だけがさもりっぱな貫禄をかもし出していた。操縦室は飛行船の一番前にある。操縦席の窓はすりガラスのようにくもっていた。
 リカは飛行船を安定させようと必死に操縦桿と苦闘を続けていた。リカは頭だけは耳当てつきの飛行用帽子をかぶっていた。だけど下はニスや油で汚れたピンク色のつなぎを着ていて、とても飛行船のパイロットには見えない。まるで汚れたピエロをそのまま連れてきたみたいだった。ただリカの機体を真剣に操作する顔は美しく、飛行船を操る腕前も相当なものだった。
操縦室にはもう一人というか一匹、妖精のマキが乗っていてさっきからリカを不安そうに見つめていた。
 「ちょっ、大丈夫なの?この飛行船!?」
 船がもう一度ぐらりと傾いてマキは思わず叫んだ。マキは金色の筋の入った青衣のローブを着ている。そして背中には蜻蛉(かげろう)のように透明な羽が2枚生えていた。でもそれ以外は身長も年もリカと同じぐらいに見えたし人間とさほど変わらなかった。でもリカは最初に出会ったときマキのことを「妖精」と言ったのだった。
 「うーん。うまくいかないなぁ。この上の雲さえつきぬければな。妖精の住む国にいけるのに。」
 リカがぼそっと答えた。 
「この上に本当にあたしが住んでた世界があるの?」
 マキが窓から空を見上げた。これまで灰色の機械ばかりを扱ってきたリカにとって大きく開かれたマキの目は何より奇麗なものに見えた。
 「そうだよ。空の上には美しい妖精が住む世界があるって聞いたことがあるんだ。あたしは機械の力で天上に行った最初の人間になるんだ。」
リカは目を輝かせていった。
「機械の力で?魔法も使わずに?」
マキは小さな声で尋ねた。
「そう。あたしは魔法を使えないから。魔法を使えない人のためにいろんな機械や道具を作るんだ。マキちゃんも魔法が使えないんでしょう?」
リカが額についた黒いすすをぬぐって笑顔を見せた。
マキは魔法が使えない。でも以前は使えたのかもしれない。
 マキは下界に来る前のことをよく思い出せないのだ。気がついたらリカの飛行船に乗っていた。リカの話しによるとマキは金の煙をはきながら空からまっさか様に落ちていたらしい。地面に落下する寸前で飛行船に乗ったリカに助けられた。そしてマキは以前、空の上でどんな生活をしていたかも魔法を使うこともみんな忘れてしまっていた。
しばらくエンジンが周期的に振動を伝えててきた。周りに雲が増えてきて気流が不安定になってくる。時おり船が上下に揺れるとマキは怖がって部屋の隅にうずくまった。
 「ねぇ、マキちゃん。堕天使の伝説って知ってる?」
 「堕天使?伝説?」
 壁にぴったりと体をくっつけていたマキはきょとんとしていた。
 「神に背いて地上に突き落とされた天使の話。」
 リカはこぎみ良く操縦桿を動かしながら言った。
 「ルシフェルっていう神に一番近い存在の天使がいたんだって。その力はこの世界を一瞬で征服できるぐらいだった。だけどその天使は自分の力を過信して天に戦いを挑んだ。それで神に敗れたルシフェルは地上へ投げ落とされてしまったんだ。」
「それで、ルシフェルは死んじゃったわけ?」
マキはようやく怖さがとれたのか興味深そうにリカに言った。
「ううん。ルシフェルは死んでなかった。それどころか人間をたぶらかして盗賊の一味になった。でも今度は仲間の盗賊に裏切られてその力を封印されてしまったんだ。」
「今度は人間に裏切られちゃったんだ。」
マキがぽつりと言った。
「そう。だからあたしは魔法の世界なんて大嫌い。裏切りの連続じゃん。そして魔法の使える人間ばっかりが威張って力のない人からいろんなものを奪っていく。それだったら機械や道具を作ったほうがましだよ。機械は絶対に人間を裏切らない。誰にだって平等に動いてくれるんだよ。」
 リカは振り返って言った。リカの視線が強い力を帯びた。
「うん。確かにそうかもしれない。」
マキはうつむいて外を見た。リカの言葉は頼りがいのある強い調子だった。でも何故かマキは不安だった。窓がカタカタと音をたてている。隙間から風が入ってきてマキの透明な羽根がなびいた。リカは不安そうなマキを朗らかに見つめていた。
「大丈夫だよ。あたしが絶対にマキを妖精の世界に戻してあげる。」
リカは自分にまかせなさいとばかりに胸を張った。
その時にガクンと大きな衝撃が走って飛行船が横に大きく揺れた。
「きゃっ。」
マキは思わずリカにしがみついた。
「あ、ミキのやつだ!」
リカが窓の外を見て叫んだ。マキは恐る恐る立ち上がると窓の外を見た。
外には体が真っ青な龍が飛行船の真横にいた。龍は深閑として雲をひたすら横切っている。流線型の体から時おり黒光りするうろこが太陽に乱反射した。龍の頭の真後ろに少女が一人乗っかって華麗に龍を操っていた。目鼻立ちのくっきりとした美少女。この少女どこかで見たことがある!マキはそう思った。でも思い出すことは出来ない。
「ミキはたちが悪い盗賊なんだ。魔法が得意だから飛竜を使いこなして飛行船から人をさらったり物を奪っていくんだ。すぐに逃げないと!」
リカは焦って操縦桿を動かし始めた。
「へぇ。こんな魔法が使える人間もいるんだ。」
マキが感心して言った瞬間、またドンと音がした。飛行船がぐらぐらとおかしな挙動をし始めた。リカが計器を見て騒ぎ始める。
「ちょっとどうなってんの。エンジンが完全に止まってる!?」
リカが叫んだ。リカは何度もレバーを押してエンジンを動かそうとする。それでもやはりエンジンがぷすんともいわない。飛行船が前に大きく傾いた。
「ちょっとぉ!何とかなんないのぉ?」
マキが泣きそうな声を出した。
その時突然、操舵室をノックする音が聞こえた。ドア窓にミキがにやにや笑いながら手をふっていた。二人は恐怖のあまり後ずさりした。
「今日の収穫は人間一人と妖精一匹か。」
ミキは遠慮もなくドアを開けて中に入ってきた。ミキは揺れの激しい飛行船の中を平気で突っ立っていた。真っ黒で先のとんがった帽子とマント。ミキは魔法道士然とした出で立ちをしてる。腰からは赤色の鞘に金色の剣を収めていた。多分盗品に違いない。そして微妙に笑ってる余裕の表情がただものでないことを物語っていた。
「噂で聞いたよ。リカが妖精をかくまってるってね。」
ミキは黒い帽子を少し上げて言った。
「嘘よ。マキは妖精なんかじゃない。人間だよ。」
リカが震えながら何とかマキの前に立って両手を広げた。
「ふうん。マキって言うんだ。こんなに可愛い妖精に出会えるなんて今日はついてるな。」
ミキはリカに構わずマキをじっと見つめていた。
「何が目的なの?もうこの飛行船には金目のものなんて何も積んでないよ。分かったら早く出てって。」
リカはミキを睨みつけていた。しばらくミキはじっと飛行船の中を見まわしていた。
「ねぇ、リカちゃん。取引しようよ。」
ミキが白い歯を見せた。
「大人しくマキを渡してくれるんだったら飛行船にかけてある魔法を解いたげるよ。だけどマキを渡さないんだったら二人とも地上にぶつかって粉みじんね。」
ミキはやはりマキが目当てのようだった。これまでミキにさらわれて戻ってこれた人間はいない。妖精だって同じことだとリカは思った。
「マキは絶対に渡さない。それにアンタのことなんて信用できるわけない。この悪魔!さっさとこの飛行船から出てってよ。」
リカはミキに向かって思いっきり叫んだ。
「こんなおんぼろ飛行船乗ってるのが悪いんじゃない。空の上は魔法が支配してるんだ。機械が魔法の力に勝てるはずない。今度この飛行船の使用上の注意に書いといてよ。魔法かけられたら一瞬で墜落しますってね。さぁ早くマキを渡しなさい。」
ミキが意地悪そうに笑った。
「あたしは魔法使える人間が何でも出来るなんて絶対に思わない。あたしは、どんな人間でもやり方さえ守れば自由に空を飛べて雲の上にもいける。そんな飛行船を作るんだ。」
リカはゆっくりと体の震えを抑えて言った。そして胸にしまってあった十字架を取り出してミキにつきつけた。
「あはは。つくづくリカちゃんて馬鹿だね。あたしだって人間だよ。そんなもの見せられたって何の力があるの。」
ミキは高笑いしてさらにリカ達ににじり寄った。でもその時マキがふと十字架を見てしまっていた。するとマキはふらふらと眩暈をおこしてその場に倒れてしまった。
「マキ、大丈夫?」
後ろで急に倒れたマキを心配してリカが咄嗟に抱きかかえようとする。その瞬間にミキが何かの呪文を唱えた。一瞬にしてリカの前からマキの体が消えた。そしてマキはあっという間にミキの腕の中に移動していた。
「マキを返して!」
リカがマキを取り返そうとミキに向かって走り出そうとした瞬間、大きな音がして天井がメリメリと裂けた。そして不気味な泣き声とともにミキの飛竜が天上から覗いた。飛竜はリカに狙いを定めると一瞬で巨大な鉤爪がリカをわしづかみにした。そして再び空の上に飛び去っていった。それを見ていたマキはショックのあまり気を失ってミキの腕の中で苦しそうに目を閉じた。
「人も妖精も力が抜けた時に一番無防備になんだ。そんなこと魔法の教本じゃ常識なのに。これだから魔法音痴の機械バカは。」
ミキはほくそえんでマキを抱えたまま操縦室を出て行った。そして飛行船の端まで行くとさっとそのまま飛び降りた。下で待っていた青い飛竜はちょうど二人を背中の上に乗せるとそのまま飛行船から遠ざかっていった。
ひゅうひゅうと風が後ろになびいていく。透明な空が飛竜を包んでいた。
マキとリカは飛竜の上でくもの糸のようなひもで手足を縛り付けられていた。ミキが先頭で飛竜にいろんな呪文を唱えつづけている。遠くに煙を出しながら墜落していく飛行船が見えた。
「やっぱり嘘だったんだ。最初からあたし達を助けるつもりなんてなかったんだよ。」
リカが悔しそうに破片となっていく飛行船を見ていた。
「ごめん。もう少しでマキちゃんは妖精の国へ帰れてたのに・・・こんなことになって。」
リカは顔をうなだれた。
「いいって。それよりあたし何か思い出せそうな気がするんだ。もしかしたらもう一度空を飛べるようになるかもしれない。」
ミキの後姿を見てるとマキは何かを思い出せそうだった。
「ねぇ、ミキって言うんだっけ。」
くぐもった声でマキはミキに話しかけた。
「何?何か用?」
ぶっきらぼうにミキは聞き返してくる。
「あたし達をどうするつもりなの?」
「心配しなくてもいいよ。二人とも売り飛ばしたりはしないから。」
ミキは笑って答えた。
「でも、もっと地獄かもね。慣れれば大したことないと思うけど。」
ミキはマキのあごに手をやって言った。
「汚い手でマキに触れないで!」
リカが叫んだ。
「ふん。後でそんな口、二度と聞けないようにしてやる。」
ミキが不敵な笑いを浮かべた。この突き放した物の言い方と笑い方。絶対に見たことがある。マキは思った。最初、ミキが盗賊と聞いて怖くてたまらなかった。でも飛竜に乗って空の風にあたっていると昔の感覚が戻ってくるようなそんな感覚がマキはしていた。
「あたしはここで大人しくしてる。だからお願いだよ。マキちゃんだけは助けてあげて。この子は本当にあたし達人間とは関係ないんだよ。」
リカが芋虫のように転がりながらミキに訴えていた。マキが助け起こそうとするが自分もぐるぐる巻きにされていて身動きがとれない。
「ふーん。大した友情じゃん。それとも愛情?でもせっかく妖精捕まえたのにあたしが逃がすとでも思ってるの。あたしが捕まえたものは永遠にあたしのもんだよ。リカもマキも二人ともね。」
ミキがつんとした顔で言った。さっきまで真っ青だった空が殺気だったみたいに薄暗く変わって来た。どす黒い入道雲がつぎつぎと現れてきた。
昔、こんな真っ黒な雲の中をマキは3人で同じように飛竜に乗っていたことがあることを思い出した。一人はアヤ、すばしこさは抜群で盗賊をやるには欠かせない奴だった。そして自分がいて、あともう一人。マキの記憶の中にその人が煙のように浮かんだ。
ミキがふと空を見上げると、幾層にも重なった真っ黒な雲が互いにけん制し合うように閃光を発していた。そして雲の裂け目から稲妻が飛竜を襲った。ミキは咄嗟に回避の呪文を唱える。稲妻は飛竜を通り越して遠い地表に落ちていった。
「何!?今の魔法だ!近くに魔法を操ってる奴がいる。」
ミキが叫んだ。
「ねぇ、ミキティ。」
空からマキの声が聞こえた。ミキが後ろを振り返って驚いた。後ろにはマキの姿はなく、縛られているリカの姿があるだけだった。おかしい。マキは飛竜にしっかりと結び付けてあったはず。
「マキ!一体どこ?」
ミキはマキを探そうと飛竜の周りを探し回った。だけどどこにもマキの姿はなく代わりに声だけが空から聞こえてくる。
「ミキティ、ミキティでしょ!?あたしだよ、マキだよ。一緒に盗賊をやってた。」
どす黒い雲がますます発達してきた。そして雲は大きくうねり突如としてマキの顔をかたちどった。
ミキはそれを見ても全く臆する気配はなかった。
「マキ・・・知らないね。あたしには仲間なんていたことないからさ。」
ミキは大声で空に向かって答えた。
そのうち雲の中に一つだけまばゆい光が現れた。その光源がだんだん強くなってぎらりといったん輝いた。そして光源はものすごい勢いでミキに向かってきた。気がつくとマキはミキの前を浮かんでいた。透明な羽根が黄金の翼に替わっている。翼がきらきらするのに反射してマキの肌は光り輝いて見えた。
「ミキ、久しぶりだね。」
マキは柔らかく笑っていた。
「だからアンタのことなんて覚えてないって。でもただの可愛らしい妖精じゃないことは確かみたいね。」
「あたしミキにお返ししないとね。ずっと魔法が使えない妖精になってたおかげでずいぶん違う世界を見ることができたよ。」
マキがふっと笑った。それを見てミキが初めてぎょっとした。足ががくがく震えてきた。飛竜を操っていた腕が急に止まった。
「あんたが伝説の堕天使だって言うわけ?サタンと同じ力をあなたがもってる?下らない!どうせ成りそこないの堕天使でしょ。」
ミキは揺れ動く飛竜の上を毅然と立ちなおした。足元に縛られているリカが転がっていた。
「そうかもしれない。でもリカちゃんだけは返してもらうよ。」
マキの顔から笑みが消えた。
「随分とご立派だね。今日はお土産よりもっと楽しみが増えたわ。あたしと魔法で勝負する?あたしに勝てたらリカを返してやってもいいよ。」
ミキは呪文を唱えると飛竜から浮かび上がった。空中を飛ぶミキの姿は鷹揚としていてもはや人間の領域を越えた魔道士だった。
「ミキはあたしには勝てないよ。もうあなたには騙されない。」
マキはゆっくり言った。
「大した自信だね。だったらあたしの最高の芸術を見せてあげるよ。」
ミキはそう言うと目をつぶって長い呪文を唱え始めた。マキの表情が急に変わった。空が真っ赤に染まり始め、とてつもない風が全ての雲を追い払った。赤い夕空にはるか向こうに黒い点が見えた。それは次第次第に大きくなっていく。
「あたしの力知って丸焼けにでもなったら?」
ミキが自信満々に言った。最初は黒い点だった鳥がみるみる巨大な黒鳥が姿を現した。
「ミキ、サラマンダーを召還したの?あんな化け物、人間が扱えるとでも思ってるの?」
マキはさすがに驚いて空を見上げた。燃え滾る真っ赤な目がマキを捉えた。血に飢えた野獣のように黒鳥はマキに向けて急降下した。
「あたしには扱えるんだ。それぐらい魔力が優れてるってことね。」
巨大な鳥は黒い炎でできていた。そしてくちばしをおもむろにあけると血のように赤い炎が噴出した。マキも一旦下の方へ炎をかいくぐり、それから空高く舞い上がって逃げようとする。ミキはさらにサラマンダーにむけて呪文を唱えた。
すると黒鳥はマキを包み込むようにして何度も何度も炎を吐きつづけた。マキが飛ぶと航跡ように見える金粉がしばらくすると見えなくなった。マキの体は炎に焼き尽くされて見えなくなってしまった。それを確認するとミキはすとっと飛竜の上に降り立った。
「マキ・・・。」
リカが絶句したように空を眺めた。
「ふふふ。見たでしょ。これがあたしの力なんだ。成りそこないの馬鹿天使なんてあたしの敵じゃないんだ。」
ミキはすっとリカに近づいた。リカは逃げようとしたが体を紐でしっかりと固定されていて逃げられない。ミキはリカの首根っこを掴むと上に持ち上げた。
「うぅ・・・。」
リカは苦しそうに息をもらす。
「これからこの世界はあたしのもんだ。もう盗賊なんて言われる筋合いじゃない・・・。」
その時、リカの目に黒い炎が一瞬映った。次に見えたのは口の中のような真っ赤な炎がミキをもぎとっていくところだった。その時、リカを固定していた紐が飛竜から外れた。 サラマンダーに容赦はなかった。ミキを飲み込んだあと飛竜をも噛み付いた。そして口から炎をはきかけた。けたたましい飛竜の絶叫が大空に響いた。黒龍は飛竜を完全に消し去ると一回大きく旋回した後、流血の夕焼けに溶け込んでいった。
リカは気を失ったまま頭を下にしてゆっくりと地上に落ちていってた。しばらくするとリカの体がゆっくりと平行になって落下が止まった。リカの真下に金の縁でできた円環が現れた。円の中心に鳥と人間を象った絵が次第に浮き出てくる。鳥と人間が融合すると絵が盛り上がって天使の姿になった。下からマキはゆっくりとリカを抱きかかえた。
マキはすました顔で空を見上げた。
「あーあ。サラマンダーの使用上の注意は魔法を使ってはいけないことなのに。あの鳥は魔道士を焼き尽くすために作られたんだ。ミキ・・・。バカだよ。」
全く静謐な空気。空には雲ひとつない青があった。それは青にカテゴライズされない、限りなく透明に近いブルーだった。東の空に明けの明星だけが光り輝いていた。
 






 
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